社長の営業②

「社長の営業」全3回
今回はシリーズ第2回目のお届けです。

社長の営業として、社長個人営業マンとしての営業会社営業の推進者としての営業の二つがあると考えることが重要である

鷹尾氏:「社長の営業」とは「組織営業」で、立場を活かした役割分担というのは有効なのではないかと思っています。例えば、取引相手に対して、社長は「成績が良くない」「会社の業績が良くないので案件がほしい」とは言えないですが、営業担当だったら可能です。その立場の違いが役割分担の中で有効機能する、というのが組織営業の有効性なのではないでしょうか。

高井氏:「社長の営業」には、社長個人の営業マンとしての営業と営業全体をトータルで動かす会社営業の推進者という二つの営業があることを理解することが重要です。

社長が営業マンとしての意識だけを持った立場をとっている限り、社長自身の個人的なスタイルでの営業はできますが、会社トータルの営業力を引き上げるのには限界があります。取引の本質、営業の本質というのは企業間の取引ですから、個々の取引を高めるだけではなく信頼関係や組織としてのトータルな売り込みという関係の厚みが重要になります。

社長が1プレイヤーとして営業をするのとは、少し次元が違ってくるのですね。

鷹尾氏:その都度の信用と、組織全体として信用ができる状態とでは、見え方も変わってくるということでしょうか。

高井氏:そうですね。社長が会社トータルな組織営業のスタンスをとるようになると、会社のPRや取引関係など、様々な視点、戦略的な視点ができてきます。営業マンの視点とは異なるわけです。だから、「社長が現場の営業マンに代わって営業する」というのは少し違います。会社が成長する時期には、社長が営業マンに代わって営業するという意識を超えていくことが重要になります。社長が何でも突っ込み過ぎ超多忙になると社長のパワーの限界が見えてきてしまいます。

鷹尾氏:そうすると、キーワードは「立場」のような気がしてならないですね。

「この会社はこの社風で」「こういう考え方をもった会社で」「理念はこうで」といった内容は、社員より社長が話す方が相手に響く。「会社の雰囲気はどうか」「会社は伸びているか」といった内容は、社長よりも社員が話す方が納得感を得られる。そういう立場の違いを最大限に活かしきったフォーメーションをつくることが、ベンチャーから脱皮するカギになるといえそうですね。

高井氏:もちろん一つ一つの営業の成果、積み重ねはとても重要なことは言うまでもないのですが、企業としての幅広い情報の交換、会社のPR、相手に対する売り込みの進度などは、「組織の売り方」という面でキモになります。社長がそれを意識して営業組織を運営すると、部下として動く方向や役割がはっきりするので、部下としては仕事をしやすくなります。「営業マンの営業がうまくいかないから、社長が代わって営業する」というスタイルだと、いつまでも「単に営業マン的な立場の社長」のままです。とても難しいことですが、発想の切り替えをすることが必要だと思います。

また、逆に「自分は営業とは関係ない」というスタンスの社長もいます。「営業は社員の仕事だ」となると、それもまた行き過ぎです。結局、社長の役割というのは、「取引先をいかに結びつけるか」をトータルに考えることだと思います。

鷹尾氏:他のテーマでも出てきますが、「バランス感が重要」ということですね。

高井氏:はい。

鷹尾氏:社長は、営業から離れる方向にいっぱいまで舵をきったらいい、というわけでもないのですね。

高井氏:その通りですね。「営業の本質」を理解しそれを意識した方法で社長が営業するのか、単に数字を求めるのか。単に数字を求めるだけでは、部下は本質的な改善をせず言い訳ばかりすることに繋がりますし、取引を拡大しない、取引課題を解決しようという意識を持たないことにつながります。

そうではなく、自社の商品の本当の進化、成長のための必要で正しいやり方は、社長だけではなく会社トータルで取引先と会話する視点で自社の商品を大きく位置づけ、商品改良に結びつけるというプロセスです。社長が本質を理解せずに結果だけ求めていると、そのプロセスがうまくいかない可能性があります。

取引は「相互利益、ギブ&テイク」の関係にあるものです。「営業の本質」に基づいていなければ、企業の発展や取引の発展が、効率も成長性もよくないものになってしまいます。だから「営業の本質」という視点は、社長にとって極めて重要です。

鷹尾氏:ギブ&テイクというところでいうと、「お世話になっております」という言葉が素敵だと感じます。ギブ&テイクの関係は「ありがとうございます」で始まらない。テイクだけだったら「ありがとうございます」で始まることになるのでしょうが、お互い様だということで「お世話になっている」と言うのですね。

高井氏:売り込む方も売り込まれる方も、「相手に喜んでもらいたい」「取引した意味がないといけない」と思っています。永続的な関係や良い知恵などを得て、「取引してよかった」と思えることを相手は求めています。一言でいえば「信頼ある関係をつくる」というのが「営業の本質」ですね。社長は、ここ一番で出ていって信頼を高める発言、行動、対応をしていくという全体を見たやり方が大事です。社長が問題意識をもって「営業の本質」に基づく営業の正道的なやり方を追求しようとしなければ、企業は発展しないですね。

「営業の本質」の中でも大切なのは、「取引の課題」が何かということです。取引関係の何が課題になっているのか、どこを改善していくのか、どこを伸ばしていくのか、どういう売り込み方をするのか、というのは、少し高い視点から見なければいけませんし、そしてこの点に社長はそのトータルな課題について最も強く問題意識を持たなければなりません。

それを見据えて「社長の営業」を考える必要があると思います。社長が、営業マンの力の出し具合、教育の仕方、目標の与え方、そういったところに問題意識をもたなければならない。これが、「社長の営業」が行き着く答えだと思います。

つまり、「営業の景色」を見られる、見られないというところが重要になります。私は「景色をみる」と言う視点を何事にも意識してきました。「景色」というのは、全体の様子、状況ですね。視野を広げてトータルなバランスをしっかり見る、ということです。より高い視点、広い視点で「営業の景色」がわかれば、指示も出しやすいし手も打ちやすい。だから「蟻の目」ではなく「魚の目」あるいは「鳥の目」で景色をみることが重要になります。

プレイヤーとしての営業から社長としての営業に移行していくときのポイントの一つが、「営業の景色」をみられるかどうかという点です。「景色」を見れば、なんとなく本当のことがわかる、全体がわかる、ポイントがわかる、相手がわかる、そういう状態になることが必要です。それが社長の仕事ですから。結論を言えば、「社長の営業とは」という問題意識をもちながら、個々の営業だけではなくトータルに営業に対処していくことが大切です。

鷹尾氏:少々難易度が高めですね。「景色を見る」というのは、「実際に社長が営業をしているわけではないけれど、相手の会社がどうなっているかを把握しておく必要がある」ということでしょうか?

高井氏:いま話にでている「景色を見る」ということに、相手の会社の景色を見ることをそこまで当てはめなくてもいいかもしれません。もちろん、すべての局面で全体の眺めや動きを見られれば、見ないで仕事をするよりうまくいきます。ただ、この話においては、まず社内の営業の景色、取引先とのもう少し大まかな関係などを見るということです。

鷹尾氏:その「景色」には自社の営業マンひとりひとりの力量も含まれるのでしょうか。

高井氏:そうですね。営業マンの力の出し具合、営業マンの意識の持ち方、営業スタンスというのは、景色のなかのひとつです。

鷹尾氏:景色というのは、課題に対して何らかの評価基準をもっていて、「ここが強い、あるいは弱い」、という形で解釈することになると思うのですが、もしその基準がなかったら「どこがどのように悪いのかわからない」ということに陥るのではないでしょうか。

高井氏:そこは、社長が営業に関わる、関わらない、という話に尽きます。組織として納得感のある方向性を見出すためには、「仕事がただ流れていっている」「反省が足りない」といったことに対して、社長の問題意識がもちろん必要です。ただ、社長がその対応の仕方を全部決める、という段階まで関わらなければいけないということではありません。社長の景色の見え方によって、対応がかなり違ってくることはありえると思います。

鷹尾氏:例えば、専務が営業統括をしているという場合でも、社長は景色を見ていないといけない。

高井氏:そうですね。

鷹尾氏:それが「専務の営業」ではなく「社長の営業」ということになってくるのですね。

高井氏:超大企業の場合は、ふりかかってくるテーマや問題が多いので、営業に割く時間や問題意識をたくさんもつというのは現実的ではないかもしれません。しかし、ある程度の規模までの会社では、社長が営業ばかりしていると、それに振り回されてしまう。極端にいうと、ワンマン化して、社長が方向を間違えてしまう場合が起こり得ます。「営業のことをバランスよく考えられるようになる段階」というのでしょうか。社長が営業にからむと「社長の営業」なんですが、その段階が少しずつ変わってくるという話ですね。

鷹尾氏:段階が変わってくるというのは、2段階でしょうか、3段階でしょうか?

高井氏:そう明確に分けられるものではありません。社長としては、より抽象的な世界に営業の問題意識をもって、それを具体的な世界に少しずつおろしていくことが大切ですね。

今回の話を纏めれば、社長が営業をしっかり見ている、或は営業のことが分かっているとの社員の受け取りが広がれば、社長の考え方、方針が浸透し営業の組織がピリッとし、力が得られるようになるということを認識してほしいということです。またその前提として、社長の営業として、社長個人営業マンとしての営業と会社営業の推進者としての営業の二つがあると考えることが重要であると理解してほしいということです。そして社長は軸足を後者に移しトータルの営業力強化をいかに図るかを意識してほしいということです。