社長の営業①

「社長の営業」全3回です。
今回はシリーズ1回目をお届けします。

社長自身が営業するという意識の壁を超えること。
目指すべきところは、会社として組織的な営業力を高めるということである。

鷹尾氏:社長の営業としてイメージするのは、社長ひとりで営業したとしても営業量の限界があると思っています。

高井氏:はい、社長はとても忙しい立場ですので社長が動ける時間に物理的な制約ができます。そこで、社長は出来るだけ社長の営業の代わりが出来る自分の分身をつくっていき、営業力を高めていくことが大事だと思います。

企業が発展するにしたがって分身を通した営業をせざるを得なくなります。営業力が組織や顧客に広がるようになると多くの人々が絡むようになり、様々な要素を含む営業や、社長の営業感覚だけでは出来なくなってくる状況が生まれます。会社の組織的な課題から、顧客、取引先のニーズや注文、苦情なんかもあるでしょう。そのような要素を解決し繰り返していくことで商品の拡大、組織の拡大に繋がっていきます。

そのような段階になると、どうやって組織としての営業力を高めていくかという考えを早晩社長が持たないといけないようになりますね。自分の発想だけでやっていると限界を迎えます。社長自身が「発展段階において発想を変えていこう」という意識を持つことが、とても重要になります。「営業、取引の高みを極めていかないといけない」というのが社長の営業ですが、ずっと社長自身が営業しないといけないと思っていると、眠る暇もなくなるくらい忙しくなってしまいます。どこかで脱皮する必要がありますね。

鷹尾氏:抱えている課題の第一段階として、質よりも営業の量を増やさないといけないと考えています。社長ひとりだと限界があり、社長以外の営業マンがいないと法人格として営業の量が増えないということがあると思うのですが、その次の段階として、社長の営業はどのようなものがあるのでしょうか。

高井氏:それは組織としての営業力をどう上げるかということですね。組織体の営業力、つまり会社としての営業力をどう上げるかという課題です。そう考えると、社長の役割というのは自ずと明確化してくると思います。

鷹尾氏:例えば社長も営業マンも同じ質で営業が出来るとしたら1+1、2+1、という足し算になると思うのです。人数が増えた場合、立場の違いを活かす、ポジションを鮮明にした方が営業の質が掛け算になりやすいということでしょうか。

高井氏:その段階を社長がどう乗り越えるかが課題ですね。それは極端に言うと「自分が営業しなくても良い」という頭の切り替えを、どう行うかということになると思います。
社長自身が「ずっと自分が営業しないといけない」と考えていて、社員に対して「レベルや意欲を社長に合せて欲しい」「言った通りに行動して欲しい」ということであれば、人数の足し算でしかありません。

部下の知恵、意欲の輪を使って、いかに会社の営業力の質を引っ張り出していくか、営業の自体の力をどう高めるか、ということが肝要です。いわゆる「任せる」形を作るということです。それが出来るようになると「社長の営業」の次元が代替わりするようになり、社長が営業しなくても、社長が営業しているような状態を創り出せるのです。

 

大事なことは、会社全体をどのような営業体制に持って行き、組織としての営業ノウハウを共有し強力化していくかということであり、営業マンを通して社長の考えや会社の営業方針が取引先に伝えられるかということです。営業マンが社長と同じ事を言っていると思われるようになると、社長の代理をしてくれているということになるので、その時は社長の営業が社長個人だけの次元を超え始め、社長の営業の役割が変わり始めているということですね。初期段階での社長の役割とは大きく変化して行くものです。そこを意識することが大事ですよね。

鷹尾氏:ではまずは「自分が営業しなきゃ」という意識から離れるということですね。

高井氏:大事ですね、そしてその壁を超えることが一番重要です。「社長の営業」とは何か?それは一言でいえば、取引先に「いかに会社そのものを売り込むか」ということに尽きます。社長の顔だけではなく、会社をどう売り込むのか。会社を社長自身の営業ありきではなく、会社全体が営業マンになるように変えていくことです。

鷹尾氏:「社長の営業」というテーマのなかに、「社長自身の営業の次元が変わっていく」というものと、「社内で営業を役割分担して、社長がその中でどう機能するか」という2つが混在しているように見えるのですが。

高井氏:混在していますが、目指すべきところは「会社としての組織的な営業力を高める」ということです。社長が前面に出なくても営業できるかたちを作っていくことです。「自分の営業ではなく部下を、そして会社を動かす」という意識を社長が持つと、やり方が変わってくるということですね。

鷹尾氏:自分が前に出ない部分で、社長としての営業スタイルを出す、と。

高井氏:極端ですが、単にプレイヤーとしての社長の営業ではなく、営業の全体を統括している社長として大局を見据えて細かいことには口を出さないということです。大体のことは部下に任せる。組織として営業を引っ張るために社長にしか出来ない営業を中心に行う、つまり、会社というものを相手にいかに売り込むか、というところを中心にやっていくのです。取引している社長同士が親しくなる、会社のPRをする、会社間の連携をする、共同開発をする、等といったことが社長本来の営業の中心テーマになるのです。

営業の細かいところには口出しせず、取引の最後を決める時だけに社長が出ていく。それは全部の取引先に出向くことではなく、重要な取引先には出ていく、取引関係を良くする、定例的に接触のタイミングを作るというようなこともあります。

鷹尾氏:私の感覚として、そのような営業スタイルの社長がいるベンチャー企業は少ないと思います。なので「次元の違う営業」という表現をされていると思うのですが、先程おっしゃっていたことをまとめると「営業の役割分担」というところに尽きるのではないでしょうか。

高井氏:そうですね。大企業の営業というのは必ずしも社長がやるものではないですね。しかし、ベンチャー企業は当初社長が営業、取引を切り開いて行くとことから始まりますので、社長の営業力は命綱ですし起業の必須要件です。ただ、ベンチャー企業が発展していく段階では、社長が営業ばかりをやっていると物理的に経営を考える時間が保てません。そうではなく、経営を考える立場から営業を強くするという方法があるのです。

ベンチャー企業が発展する時というのは、社長が営業しなくてはいけないという意識と、組織の営業力を上げていくという意識の切り替えがうまく出来ているかどうかが重要なのです。いつまでも社長が営業マンとして走り回っていることや、部下を叱り飛ばすことでしか組織を引っ張っていけない会社もあります。それは結局社長が営業マンを脱皮しておらず「社長個人の営業」を「会社の営業」に変換しきれていない部分があると考えています。それがベンチャー企業の発展におけるひとつの限界を示しているのはないでしょうか。

鷹尾氏:面白いですね~!

高井氏:小さい組織ですと、社長と社員がface to face の状態でいられますが、何十人かの規模になると、社長が持っている情報と、社員が持っている情報が違ってきます。社長から見ると営業情報の取り方が足りない、営業から見ると社長の情報が入って来ないがゆえ大した営業が出来ないという状態になります。

どうやって組織一体でやっていくかということが、組織をある程度大きくしていく中でカギになり、そこで営業情報の共有というテーマが重要になるのです。情報を共有することで、取引先により食い込める力になっていくのです。もし営業情報の共有がなければ、社長は部下に対して数字を求めがちになり、大きな壁にぶち当たり、社長と社員の間に大きな溝が生まれるケースもあります。社長はその段階の切り替えを、どのようにうまくやれるかが大事です。そしてそれが経営そのものなのです。

鷹尾氏:そのケースはきっと、社長は自分の営業が100点だと思っていて、社員さんの営業がそれ以下、例えば60点くらいの営業だと思っているからでしょうね。

高井様:組織としての営業力というのをどう高めていくか、というテーマはプレイヤーとしての営業力とは違います。なので、セールスから出てきた人が、ずっと同じセールススタイルでいくと、組織としての営業力を高めるという意味では必ずしも会社トータルの営業力が上がったことにならないこともよくあります。逆にセールス出身の人で、営業の現場を分かっているからこそうまく組織営業に昇華できる人もいますね。

まとめますと、第一点として社長は「社長の営業とは何か」を常に考えろという点、第二点として社長の営業とは社長自身がやる営業という仕事と組織を使った営業を作るのが社長の仕事であるという点の二つがあるということです。こういう視点があると社長は営業を俯瞰することが出来るようになり、営業を強くするベースが得られるようになると思います。