社員の目標~少し工夫しながら仕事を進めることで、アイディアややりたい事が見つかる~

自分だけの目標ではなく、外に目を向けることで情報の共有化ができる。
情報の共有化とは違った情報をつなぎ合わせるということ。そこから新しいものがスタートする。

鷹尾氏:色んな社長さんにお会いしている中でも、「やりたい事や実現したい理念・実際の商品・手伝ってくれる社員」この三者が完全に一致した会社というのはうまくいっているように感じています。社長はいつも自分は何をやりたいのか、というのを常に考えているのと同じように、社員さんもやりたいことを考えている。けれども、社員さんはやりたい事が分からない。
社員さんからはやりたい事が見つからないという話が多すぎて、自分の目標を持ってやりましょう、ということが非常に難しいと感じています。
社員さんも、社長もやりたい事が明確だ、ということが出来れば最強な会社になれると思っています。

高井氏:共同経営でスタートする場合は別として、ベンチャー企業など設立から間もない企業では社長と社員がピッタリ会話でき、目標が一致するということは現実的には多くないと思います。簡単に目標が出来てしまうと、そんなに悩まないですし。
やるべき事が一致すると企業は具体的に動き出しますね、簡単に思いつく目標はどこもやるようになるので競争の仕方に話題が集中する面がありますね。

しかし今の話を伺う限り設立間もない若い企業の話であり、まだ社員が会社に馴染めていない段階でもありそうですね。目標が一致しないということは、立案者と協力者が同じ次元で考えるテーマがまだ出来上がっていないということがあり得ます。
同じ次元で考えるテーマが出来ていないということは、他人には全く分からない、自分だけしか思いつかないような希少価値のあるアイディアの可能性がある域は、そのような段階にあるのです。そのような普通出てこないような斬新なアイディアをいかに自分だけのテーマと限定せず全体に広げていけば良いのか。
作戦を考えたり、企業としてどうすれば他人より優位に立てるだろうかと苦悩する状況が現実には生まれているということだと思います。新しい商品、サービスが出現する時にはよくある話で、ベンチャー企業ではそのようなケースが一般的なことだと思います。

同じようなことは画家などクリエイティブな世界でもあるようですね。友達同士が仲良くなると生産的ではなくなると知人の画家に聞いたことがあります。認め合ってしまうと刺激を得ることがなくなるのだそうですね。
他にないものを作ろうと刺激し合って独創的な世界が生まれるそうです。全く異質の物が噛み合っていくというところに新しい物が出来るということです。

しかし一般企業やベンチャー企業の場合、成長していくと会社は全社の力を集結し、物・サービスを作るわけですので、少し次元や現れ方が違います。
隣の部署や普段あまり話さない人と話すことで刺激やアイディアを得て、組織協力をし、議論をベースに力を合わせられる「形」を作り、中身を高めていくことが日常的なやり方になります。それは若い企業とは違い、そこでは組織的連携、刺激の使い方が物事を高める方法として重要になります。
経営論的に言いますと「戦略論」をうまく「組織論」でカバーする形でやっていくと経営が上手く回るということを意識することが重要になってきます。
若い企業はそういう方向に成長していくものだ、とも言えますね。
鷹尾氏:なるほど~喧々諤々とした方が新しい物が生まれやすいということですね。

高井氏:前回お話した日経「私の履歴書」に出たアイリスオーヤマの場合は、他社の製品を真似ずに全部自社製品を作る、世にない商品を作る、という方針で商品企画を柱にして成長してきたのです。
部門が分かれ組織の独立性が強い一般の会社と違い、こういう物が欲しい!というのを企画・製作・販売の3部門が同時に、もしくは一体になって商品開発をする。
商品が決まったら工場に作るよう指示をするという連携の仕方でやってきたようです。
一般の会社の場合、物を作る製造部門が先行するのが普通ですが、アイリスの場合は3部門が集結しているところが特徴ですね。いかに異質の世界を混ぜ合わせるかというのが、まさに情報の共有化だと言えます。情報の共有化というのは違った情報を繋げていくというところに大きな異議がありますね。いつも「同じ部署・企業・業界」だけのお付き合いしかないと発想が過去の経験や周囲の人に集中していき、悪く言えば頭が固くなっていきます。
要するに新しい発想が出てこなくなるわけです。

鷹尾氏:全く別次元の組み合わせから良い発想が生まれてくるということですか。

高井氏:結局、そういうことなのです。1人だけ、もしくは1部署だけが単に「流れを追う商品」「販売する側のこだわり」「作る側の発想を優先」するのではなく、アイリスオーヤマの場合は【顧客・生活者が本当に困っている悩みを解決する】という点に出発点を置くわけです。
新しい物、企画をすること、そのものは目的ではなく手段であるということを忘れてはいけない、ということを教えてくれます。

社員が「生活者自身としての悩み」を解決するために頭を使って考えることに面白みを感じています。「誰かが悩んでいる、それを解決するために何が出来るか」を考えること。
それがヒントの取り方だと言えますね。要は自分の悩みを解決する商品を開発しなさい、ということです。

また、アイリスオーヤマのヒット商品に園芸用品というのがありますが、社長の奥様の庭いじりをヒントに商品化している、というところが注目点です。生活者の悩みに焦点を当てることが商品化の原点になったそうです。
奥様が困っている、それを商品にしよう!と。
お客様の苦情を商品にしていると言われている花王も同じようですね。消費者からの苦情が毎週月曜日の朝、社長の机に届けられる、社長が毎回それを楽しみにしているという記事を読んだことがあります。それは匂い・量・形だとか、お客様からの苦情や意見がヒントになるのです。そこには苦情は商品開発の宝庫であると書いてあったように記憶しています。

鷹尾氏:お話は社内も社外も苦情を言ってもらえるかというところに集約されてきているかと思うのですが、それを言ってもらえないから気づけないと。

仕事を少し工夫しながら進めることで、いろんな知恵、やりたい事が集まってくる。そういう人達は仕事が面白くなってくると、どんどん自分で仕事をやるようになる。

高井氏:ギブ・スパイラル・ジャパンの場合はサービス業ですので、発想の「種」としてお客様が当社をどう見ているのか、のお客様の苦情がありがいですね。
私が営業の責任者だった時、わが社をどう見ているのか、いわば取引先の苦情や本音を引き出すために率直に「うちについてどう思いますか?」と聞いてました。
取引先もちょっと遠慮して本質的なことや問題点については直々には言ってもらえないでのすが、例えば仕事が遅い、早い、しつこいという言葉が出てきたことがありました。
その言葉を頂き、取引先は早い返答を欲していると考え、銀行の中では一番早く返事するように部下に指導したことがあります。取引先はその返答を元に条件など方針を考えるわけで、他の銀行はそれを前提に条件を出すことになるので、わが社が案件の動きをリードする可能性を貰えることになります。取引先もわが社を、そのような期待で見ることになり担当者としては面白い立場に立てることになります。

そうなると次の作戦、つまり先方に何を動きかけると効果的かという提案を考えさせるのです。これを積み重ねていくと「相手の考えていること=ニーズ」が少しずつ分かってきます。
次に出てきたニーズへの取り組み策を検討することで仕事の中身が広がっていきます。
このようなことを繰り返していくとヒアリング能力がついていき、ヒアリング能力がある人はどんどん活躍していきます。それは苦情というよりもまさにニーズですね。ヒアリング能力の高い人が良い成績を上げるということになります。

なぜヒアリング能力の高い人が活躍するのか、それは実はヒアリングが上手くいくといろんな事がやりやすくなるからです。例えば貸出条件で敗退したとしても、ニーズに合せて情報を提供することや提案することを繰り返せば、情報の提供力で他の銀行に勝てるようになったということもありました。情報提供は極めて独自性がありますから、それは誰もが簡単に真似ることの出来ない世界ですよね。そういう中で競争相手にはちょっとリードすれば勝てるということを知りました。ライバルとの競争は完勝できる程、甘い世界ではありません。
ちょっと差があれば良い、差が重要だということです。

鷹尾氏:本質的なマーケティング機能ですよね。

高井氏:お客様が「どう考えているのか」がとても大切です。それが分かれば仕事はやりやすくなります。ヒアリング力をつけてお客様のニーズが聞けるようになれば、どうしたら他社に勝てるようになるか、満足してもらえるのか、を考えるようになります。
そうしている間に知恵が積み重なっていき、やりたい事が勝手に集まってくる。
私の経験ですと、そういう人たちはちょっと仕事を工夫し仕事が面白くなってくると、先方のニーズが分かることで、どんどん自分から進んで仕事をやるようになります。

いつも言いますが、仕事は任せられるようになると上手くいく確立が高くなります。向上心がある人は自分から仕事をするようになり、自主的にやるようになると必死に考えてやりますから力がつきます。そう考えると上司はそのような「場」をどのように作ってあげられるかが仕事になります。