自責と他責

上司や環境が悪いというふうに他責思考に陥ってしまう人は反省、改善の方向性がなかなか出てこない。
一方、自分が悪いと思える人、さっと気持ちを切り替えられる人は問題を解決する姿勢が出てくるし、結果として問題解決が早くなる。

鷹尾氏:最終的に経営というのは、『人に向かう』ということを実感しています。松下幸之助さんがおっしゃっていたように、経営者の悩みを突き詰めていけば、最終的に人の問題に行き当たり、人間とはどのような物なのかというところまで考えるようになりましたね。

高井氏:人間が「究極だ」という状況になった場合、人間の底力、社長のスケールが試されているということだと思います。「子どもの時に鍛えておけ」とよく言われていますし、ことわざにも「三つ子の魂、百まで」というのがありますね。基盤となる人間性はとても大切だと思います。

今朝新聞にイチローのお父さんの記事が出てましたね。その記事にはイチローがまだ小さい時に悔しい思いをした、という話しを聞き、見返してやれ!というようなことを言ったそうです。その悔しい思いが今のイチローの原点になっているそうですよ。

 

鷹尾氏:問題はそこです!お父さんはイチローが今のように成功するだろうと予測し、悔しい思いをさせたわけではないですよね?
経営者としていつも問題に感じているのは、本人の意欲云々で適性をもっているエリアを伸ばし、広げる、というところで人の成長の先見性という見方をしないと、適性があるだろう部分に思い切って誘導しても、全く適性がない場合がありますよね。

高井氏:それはありますよね~。最初からその適性を判断してしまうのが全てではないとも思いますよ。100%その人が悪いということでもなく、人間というのは環境や与えられたチャンスで育つという側面が強いですから、感情的なものを持っている人「悔しい」「悲しい」「怒り」「悩み」「喜び」などを強く持つ人は、それをベースに引っ張って行きやすいでしょうし、それがその後のエネルギーとなるのではないでしょうか。

そこは企業人として、関係する人間を「どう育てるのか、どのように動機付けをするのか、指導するのか」というのは管理者としての役割責任があると思います。いわゆる管理職のマネージメントの問題だと言えます。

私は銀行時代にクビにできない人を部下にするしかなく、例え部下を変えてくれと言ってもチャンスは与えられない。ではそこで【文句を言い続ける】のか【仕方ないからやれる事からしよう】とするのか。私の若かりし頃のケースでは後者の選択をして、仕方ないから諦めて働いていると意外に結果が良かったり、恵まれたこともありましたね。
私の場合は、諦めるというより何か【工夫せざるを得ない】と考えを転換しました。
そのような発想の転換が、私の人生の転機の1つになったとも言えます。

そのように自分が「どう発想をし、どう行動するのか」で次のステップが大きく違ってきます。
管理職になってからは、どのように部下の動機付けをするのか、と問題意識を持ちましたね。

部下の中にはマイナスの感情を持つ人間ほど、プラスに変えたいという思考が強かったので、何をしてあげれば良いかと常に考えるように努めました。そしてその結果、人を動かすノウハウを身に付け、マイナスの思考をプラスに変えることが事業向上の1つの礎になったことを思い出します。

結論、私は「人は環境で育つという部分は相当大きいと思っています。」実はそこがマネージャーの仕事の中核だと言えます。

鷹尾氏:そうなってくると、チャンスの与え方も社長の心得の1つだということになりますね。

高井氏:そうですね。そしてチャンスを与えた結果うまくいくと、人の使い方に「妙」が出てきます。人をうまく使えるようになると、部下への仕事の任せ方が上手くなりますよ。
冒険的ではありますが、権限を一部部下にあげるようにすると、部下は仕事の範囲が広がり、責任を感じることで意欲も高まる。驚くほど積極的になったりします。
そうなると部下が勝手に仕事をしてくれるようになっていきますよ。

仕事が出来るマネージャーは仕事の任せ方が上手いと言われています。素質がある人にチャンスを与えることで人材は伸びることが出来る。そしてこのように人材の動きが活発化して全体が動いていくと、その雰囲気に巻き込まれて積極的な軌道にうまく乗れる人が出てきますよ。

ところが、全体が動くことで軌道に乗れない人も出てきて、こんなはずじゃなかったと上司や環境が悪いというふうに他責思考に陥ってしまう人も出てきます。他責思考は自分に責任はなく、悪い点もないと思っているので、反省や改善の方向性がなかなか見つからないのです。
そうなってしまうと根本的な問題が解決しない。

仮にそのようなことに陥った時に、【自分が悪いと思える人】【さっと気持ちを切り替えられる人】は問題を解決する姿勢が出てきますし、結果として根本的な問題解決が早くなります。
僕はこういう人は成長すると思いますね。いわゆる「内攻型人間」というそうですが、課題は自分にある、と自己のことを攻める人間のことですね。
内向きの「内向型人間」とは違いますよ。

常に自分に向かう発想法、常に反省の心をもつ人間と言えます。
このタイプの人間は多くのノウハウを持っており、目標に粘り強くチャレンジすると言われています。社長になる人材は内攻型人間が多いとも言われています。

鷹尾氏:そうですね、各々の捉え方として、というところで成長度合いが違ってくると感じています。よく部下には自分でコントロールできない部分については捨てろ、自分が努力してコントロール出来ることを的にしろ、と言っています。

高井氏:そうでしたか、1つの発想法として良いと思います。
出来ない言い訳としてよくあるケースが「不景気だから成績が悪い」「業界が不況で商売がしにくい」などということをよく聞きますが、このように他責的な発想、自分の行動、反省に関係ない理由付けでは、本来の課題は何も解決していないということを肝に銘じるべきです。

自分が行なったことで、【何を失敗し、何を反省したか】というところが一番重要です。
自分がやってきたことを振り返って反省し、新しいことに挑戦してみて、失敗する、その繰り返しで一番良い方法を探し出す。そのような発想で創意工夫する、チャレンジする人が最終的には絶対勝ちます。なので、失敗はしたくないが失敗を恐れるな、失敗しても割り切る部分もありながら、自分の考え方や行動を問題にした方が良いと言えます。

「失敗すると悔しさを感じ、次回は何とか成功しようとする、そして反省しやり方を改める、その結果、新しい流れが出来る」など、失敗にはプラスの面、潜在的な成功要素があると言えます。そして失敗に前向きな人間は「度胸がつく、発想が柔軟になる、アイディアが豊富になる、積極性が出てくる」など大きなパワーが得られると思います。
私は現役時代、幾度となくそういう場面を見てきました。

まとめると、社長として失敗の意味、失敗の活かし方をしっかり理解しておくということです。失敗しても暗くならない、失敗した部下を冷たく扱わない、精神的にタフになるという発想でやって欲しいと思います。

社長の目標と繋がるような目標が社員から出てきたら大歓迎!それは目標の面積が広がるということである。

鷹尾氏:チャンスの与え方というところで、チャンスを与える側からするとチャンスの本数が少なく、限定的なものになります。その中で、チャンスを受ける側は潜在的に選ばれたと認識しているから燃える要素があるのかもしれないと考えています。
そこで「どういう人に、どんなチャンスを与え、何を期待するのか?」というところで人の使い方にコツがあるのでしょうか。

高井氏:それは目標設定の仕方だと思いますね。誰が目標を設定するのか、と考えた時に2つのパターンがあります。1つ目は社長が設定する、2つ目は社員がそれぞれ設定する。
この2つだと思います。例えば全部社長が目標設定するという仕組みですと、社長の考える部下の能力範囲、自分の発想範囲で全てが規定されるので、自ずと限界が出てきます。
そうではなく、目線が違う人、社長とは違ったことをやりたい!という人が出てくれば目標が広がってきます。その出てきた目標が、社長の目標と繋がるようであれば大歓迎ですよね。
社長が発想する目標に加えて、新たに加わるわけですから目標の面積が広がるということなので、このあたりをうまく活用すると良いですよ。

そして、社員が自分で作った目標をどう活かしていくのか、が重要ですね。自分が目標として作った、納得したものだから持つ目標は積極的に捉えられます。
それは、社員を引っ張り込むという言葉で、受け身ではなく能動的な組織にするという事を意味します。

極端に言うと社長が作る目標と、社員が作った目標の合計がきちんと繋がるということです。
社長としては社員と目標に向かって深い会話が出来ることになります。実際は特に小さい企業では上からの指示を待つのが一般的ですが、上から示すものだけが目標と狭く考えない方が良いと思います。意外かもしれませんが社員が現実を知っている面も大きいと思いますし、何度も申し上げていますが「蟻の目」の活用にも話は繋がります。

鷹尾氏:それは面白いですね!その発想はありませんでした。社長がマークしていない目標次元で目標があがってきた場合は面積が広くなるから、むしろそれを歓迎すべきあると。

高井氏:そうそう、社長が設定した目標と、社員個人が設定した目標を足すことで、部下の力を上手く活用していく。その中から意欲的な部下も出てくるでしょうし、もう少し中間的な人がいれば部下の意見を聞いた上で、もっとこうした方が良いとアドバイスしたり、その分野に精通した人を知っているから紹介しよう、ということになったりと外からの意見を取り入れやすくなりますね。新しいやり方がどんどん出てきて、もっと面白くなってくると思いますよ。