巻き込み力

社長の夢に引っ張りこむ、夢に対しての味方を集めることも重要。

鷹尾氏:経営者の悩みの一つに、自分がやりたい事に、他人のやりたい事を抑えながら巻き込んでいくというのがあるかなと考えています。
例えば社長指示で社員に「新しい企画をやれ!」と命令することは出来ます。そして実際にブレストするとダイヤモンドのような素晴らしい企画が出てくるかもしれませんが、その企画を全員がやりたいか、と言うとそうでもないようなことがあるかな、と思います。

高井氏:そうですね、社員全員が社長と同じようにやりたいと思うような同じ次元で発想するのは現実的には難しいかもしれませんね。社長と同じように発想し、同じ夢を見たいという人を下につければ良いとは思いますが、現実的には極めて難しい話です。

一般的には会社の中でも社長に「なりたい人」が1割、「なりたくない人」が6割、間の3割くらいは自分のアイディアを活かして自分らしい面白い仕事がしたいという人がいます。
大企業の中でも、ベンチャーで社長にアイディアを出して仕事をしたい人が潜在的に1-2割はいると思います。その中から大企業よりもベンチャーの方が良いという人が出てきて、大企業は辞めてベンチャー企業に飛び込む形でベンチャー企業を興す、もしくは勤めるようになると。そのような場合にはベンチャー企業の機能を活かすベースになりますね。
アイディアを出し合って会社を盛り上げようというところが最近の世の中としては旬な流れになってきた側面があるのではないかと感じています。そういう人間が昔に比べて増えていると言われていますね。
昔は大企業に入らないと夢の実現は不可能に近いことが多かったのですが、今はベンチャー企業に入って個人の夢を追いかけながら周りを巻き込むことも出来るような時代に変わってきたと言えます。単独で夢を実現することは難しいけれど、自分と同じような夢を持っている仲間が集まっている会社に入ろう、同じ思いを持つ人間同士、夢を実現しようという働き方の人がウエイトを高めてきているように感じます。

鷹尾氏:経営のトップとしては適材適所だというような捉え方で良いでしょうか。

高井氏:それは人の「働き方」「生き方」「能力の活かし方」という話であり、千差万別だと思います。期待してもダメだった、反対に予期せぬところで能力が発揮されてハッピーなこともありますし、そこは理想と現実として割り切るしかないと思いますね。
社長である自分とピッタリの人材と一緒に仕事が出来るということは、実現率としてはそう高くはないと思います。しかし、社長の立場としては自分の同士を求めていく、自分のやりたい事の味方や仲間を集めていく、という考え方は経営者としていつも持っておいた方が良いですね。

鷹尾氏:適材適所であれば、そこに合う人に合った物を任せれば良いという発想になりますが、それだと本人が育たないのではないか?とも思っています。本人が望む方向と、権限で与える適材適所の部分のバランス感もあるのかな、とも思います。

高井氏:そうですね、本人が望む方向と、社長から与える適材適所という考え方もありますが、大事なのは「どうやって社長の夢に巻き込めるか」のテクニックも必要ではないでしょうか。そういう人をインフォーマルに集めていくという手もあり得ますよね、例えば大学の仲間や前の会社の同僚ですとか。

鷹尾氏:面白いですね~!兄弟なんかも典型ですね~!!

高井氏:IT業界ではそのようなパターンはよくあるようですね。面白い企画を思いついたけど、自分だけでは出来ないから大学の仲間や同じ職場で働いた昔の同僚に声をかけ、企画の段階から色んな意見やアイディアを聞いてブラッシュアップしていく。そんな風にインフォーマルな関係から始めることも出来ると思いますし、実現にはそういうケースはとても多いのではないでしょうか。

鷹尾氏:そうですね、一部上場の次の社長さんや、海外で言うとヒラリー・クリントンさんですとか色んな巻き込まれの中でありますよね。

高井氏:海外では、外から来た経営者の方が主流になってきているケースも多いと聞きます。つまり、外から来た人の方がその会社の活かし方がよく分かる。ということで一つの職種として社長業というのがプロ化してきています。
むしろ中からトップにいく人の方が、経営学としては会社の活かし方が分からない、薄っぺらいという場合もありえます。外からパワーを持ち込む、社内に新しい風を吹かせることで新しい流れが出来るということはよくある話です。ベンチャー企業は特にそう言う局面に遭遇することが多いと思います。

鷹尾氏:社長プロフェッショナルを引っ張ってくるということですね。

高井氏:そうそう、日産自動車が三菱自動車と資本提携した話などでもそういう面があるようなことが指摘されています。外から来たゴーンさんだから意思決定が出来た、スピーディーだったとマスコミ等では言われています。
日本企業の一般では、組織の下から積み上げて行くボトムアップ的な捉え方、発想が基本なのでなかなか抜本的な発想は出てこない。そういう流れで勝ち抜いていった人が意思決定をする。それが日本の意思決定の仕組みになっています。そういう体質の中ではなかなか流れを変える意思決定はそう簡単にはし辛い状況がありますね。ゴーンさんは、経営のプロとして外から招かれているので、異次元の戦略決定が出来ることができたとマスコミ等では言われているようですね。

鷹尾氏:それはトップの責任ではなく、意思決定の仕組み、組織のせいですね。

高井氏:そういうことです。けれども「会社を活かす」という視点から考えると、かえって外の人の方がその会社の良さを分かっているという部分というのがあります。「灯台下暗し」というやつですね。
社内だけでやるというのは社内としては循環しますが、社外の様子がわからなくなるわけです。そんな風に社外から人を招くインフラ、招くことで新しい発想、新しい商品が出来ていくという考え方もあります。

鷹尾氏:だいたい外業界から入ってきた革命児がトップになりますもんね。

高井氏:あり得ますね。なので、人材教育の視点からいくと社長の夢に引っ張りこむ、引っ張り込み方にはインフォーマルな仲間という手もあり得るわけです。

鷹尾氏:実に泥臭い戦術ですが、それもありですね。

高井氏:そういう「戦略力」の鍛え方というのも、社長にしか分からない経営の肝になる話です。最近の経営学を学ぶという流行では経営のハウツーになりすぎているように感じますね。経営の目指すべきところは、経営そのものであり、経営学として経営細部の事項のハウツーに拘ることや、店頭で経営学と称してハウツーものを売るのは経営学という側面では不十分な気がしています。
細かい事項のハウツーよりも手前、自らの夢をいかにマネージするのか、自らの強い思いをどう実現していくか、という視点が重要ではないでしょうか。
時代はどのように変わろうとしているのか、その流れでどのようなビジネスが生まれるのか。
変化が生じ、どのような豊かな発想が生まれてくるのか。そしてどう実現していくのか、など、経営が誕生するダイナミックな側面や、「戦略力」の鍛え方の問題などを強調して欲しいと思いますね。そして経営者にはそのような視点を持って欲しいと願っています。