社長の心得

高井様が考えられた「社長の心得」を読んで対談____

鷹尾氏:違和感があるものは何一つありませんね~。
ただ何か大きな事があった時や、それに対応した時に、後から「あれはそういうことだったのか、自分はまだ分かりきってなかったな」と思うことが肉付けされていくことがあります。
つまり経営者の心得として語録になっていて、それを見た時に基本的に経験値で解釈すると不足している点が見えないですね。果たして決断があっていたのかどうかのジャッジが出来ないです。ただ、経験していくと足りない部分があるのは漠然と認識しています。

戦略力と戦略を進めていく組織力(マネジメント力)を足すと、経営力になる。社長はこの大きな2つのテーマを常に頭においておくべきである。

高井氏:社長業というのは明確なターゲットやゴールを目指すことでもないので、エンドレスな面があります。経営の根本というのは、商品やサービスが会社の流れを決めていくものなので、商品に合せて経営をし、世の中の流れに合せていくということが基本になりますね。
その過程で色んな問題が起き、課題を解決していくことが経営のテーマとなり、その中で自分に足りない部分や、やるべき事が見えてきます。
経営というのはシンプルに整理すると、「戦略力」と戦略を進めていく「組織力」。この2つを足すと経営力になるということです。
「戦略力」と「組織力」が基本テーマだということを、社長は常に頭においておくべきだと思いますね。

経験を積み重ねることで、それぞれのテーマでの実力がついてきて、最終的に経営力がつく、と考えて良いと思いますよ。


鷹尾氏:
私は経営には羅針盤が必要だと思っていまして、漠然とした解釈の中で方向を決めるということを続けると違いや不安が見えてくるかなと思います。

高井氏:そうですね、きっちりテーマを決める必要はあまり無くて問題意識を持っておくことが大事です。経営というのはシンプルに考えた方が良いので、スタートラインがそこにある、と考えておくということで良いのではないでしょうか。
社長さんの仕事というのは、色んな視点から考えると役割はたくさんありますし、一つに決めるというのは非常に難しいです。特に社長さんは突っ走らなければいけない立場なので、たまに今までの経緯を振り返ってみるのは良いことだと思いますよ。

特に「自分の過去」ないしは「課題を整理するため」にこの視点をもつ。で、良いんじゃないかなと感じます。社長の心得は世の中の社長さん宛に書いたものなので、鷹尾社長にぴったり当てはまらないとは思いますが(笑)

鷹尾氏:世の中の社長さん宛だからこそ価値があると思います。私の場合ですと例えば、経営とは「戦略力」と「組織力」であると言った場合に、「戦略力」の方が圧倒的に弱いと感じています。本質的な情報をどこまでマークしているかと思うと弱い、と自身の過去を見つめることが出来ます。

高井氏:そうですか、戦略力の根本は「自分が仕事を通じて何をしたいか」というのがテーマだと思います。そこが社長さんの出発点ですね。
自分だけではその目標を達成できないから部下を集めて組織を作っていきます。経営というのは誤解されがちですがリーダーシップから入るわけではなく、「自分のやりたい事」から入ってきます。今回「戦略力」が足りないという問題を見つけ、反省をしたということだと思いますよ。経営者は一人で抱え込まずに耳学問、目学問をし、自社商品の客観的な姿や評価を得て、うまく活かすこと。そして「戦略力」だけではなく、「組織力」もバランス良く進めていくことが大事だと思います。

鷹尾氏:具体的に社外に客観視できるインフラを持つというのは、どのようなイメージでしょうか。

高井氏:社外というのは自分以外での情報源を持つということです。
「経営力」「戦略力」「組織力」を自分で高めていくために、情報源を持つということですね。
社内で集めるのは当然ですが、自分に必要な情報を集めるルートとして、ネットワークや友達を意識し、外部の情報源を持つことで「自分を高めていく」ということを意識しないといけないですね。

例えばコンサルを雇う、業界団体に入る、交流会に参加するなどでも色んなインフラが出来ますよね。参加目的をハッキリさせて意図的に使っていくことが重要です。
私の経験では、人は何か聞かれた時に、その人が考えた一番良いアイディアや意見をくれます。それは自分の状況を全く知らない人からの意見でも案外ヒントになることもあります。

社長さんという立場は、考え方に強い「主観性」と「客観性」を持たなければいけません。
客観性の1つの手段として、人の意見を聞くことが有効だということです。「主観性」が6-7割、「客観性」が3-4割、を意識しておけば良いでしょう。

私も鷹尾社長の「客観性」の一部にあたりますので、私の言うことばかりを頼っていると客観性という意味では上手くいかないです。逆に自分の意見が正しいとこだわり過ぎると、他人の言っていることが信用出来なくなってきますので、「主観性」「客観性」のバランス感は非常に重要です。私にしても外部者からの意見なので、主役になるということはあり得ないわけです。うまく耳学問、目学問をしながら目的に近づいていけば良いと思いますよ。

鷹尾氏:非常にバランス感が求められるということが勉強になりました。優先順位としての1番は「自分がやりたい事」があり、2番に「どうやっていくのか(手段)」がくるということですね。

高井氏:そうです、自分のやりたい事をどうやって高めていくのかが一番重要です。そしてその目標をどうやって大きくしていくのかという意識も重要ですね。
サービスの拡大、サービスレベルの向上、支店を増やし幅を広げる、もっとお客様と深い付き合いをしていく。それが企業として全ての出発点になります。
それがないと結局こぢんまりとした良い形、で終わっていくことになり兼ねないですよね。

経営に対する世の中の流れとしては「経営技術論」が中心となっていますが、私はベースになる「経営学」や「トレンド学」を学ばないと自分の商品を伸ばしていく発想が育っていかないと考えています。
トレンド学と言っても日本だけではなく、海外のことも勉強した方が良いですね。特に今後ますます日本との関係が多岐に広がるアジアを勉強した方が良いですね~。最近では物ではなく「日本の文化を買う傾向」に変わりつつあるようです。海外のお客さんが日本のリピーターになればなる程、色んな日本の文化を買ってもらおうというので、その一つに美容産業が入ってきているという話もあります。美ンバウンドというそうですよ。

そのようにトレンド学、主にアジアのお客さんの動きを知るか知らないかでサービス・商品内容の高め方が変わってくるでしょう。そのようなことも社長さんが積極的に勉強し、社長さんがやりたいという事を社員に示せば示す程、社員さんはやる気が出てきます。
それは社長さんしか出来ない喜び、そして社長の実益に繋がっていきますので、社長さんが「やりたい事」については暴君であっていいですよ。

鷹尾氏:私は「やりたい事」と「有益な事」の整合性がとれずにいる、という悩みがあります。

高井氏:それはあるでしょうね。そのバランスをどうとっていくのかは、商品作りの問題だと思います。細かく言えば商品の生命力・戦う力となりますが、決め手はマーケティングです。
商品の生命力や戦う力を誰かが判断しないといけない、という段階でトレンド学が入ってきます。
少し前に日本経済新聞の「私の履歴書」に掲載されていたアイリスオーヤマでは、奥様と大喧嘩したことがきっかけで商品を開発し、それが大ヒットしました。大喧嘩の理由はゴルフに行く時に服がなくて奥様と大喧嘩したんです。

昔は服を入れておくケースはカラーが主流であり、季節の変わり目にはカラーだと中が見え辛いからクリアのケースを作ろうと。しかしクリアというのはお金がかかる。ではかかるコストをいかに抑えて作るか、ということで商品開発をし、結果クリアケースが大成功したんです。
そこから世の中がガラッと変わりましたね。今では文房具では何でもクリアにしようと世界でもブームになりました。ブームを作ったのは夫婦喧嘩がきっかけだった。
アイリスオーヤマの会社HPを見ると、なぜうちが強いのか、「あの夫婦喧嘩がなければ世界は今より不透明だった」と書かれています。そして儲けの理屈がしっかりしています。営業利益が1割以下だったら取りやめ、新たにニーズがあると思うものを作り出す。
すぐに模倣されますが、価格競争ではなく、新商品開発にいくと。日本がダメならアメリカにいく。そのように商品の夢が広がっていくわけです。

クリアケースも最初から考えていたわけでなく、商品自体のニーズがあったから社長が面白いと思い、商品を育てていきました。そこで私はお客さんがついていれば、企業は勝つということを学びましたね。

そのようにアイリスオーヤマでは商品開発に力を入れていて、1年間で1,000点の新商品を開発するために、朝から晩まで社員会議をするそうです、一人のプレゼン時間は5分、自分のセクションだけではなく、企画・生産・販売が一緒になって企画し、横の情報を共有する。横の繋がりを作ることで人材開発をうまくやっているようです。
最終的な決定権は全て社長にあり、情報はその場に集約されるため物凄くスピード感がありますね。
このように戦略がうまく、組織もコミュニケーションの取り方が非常にうまい。現場は現場に任せ、うまく活用することによって飛躍的に拡大しています。この記事は、若い企業の企業活動の成功事例、失敗事例が満載ですね。成功も失敗も、本当に沢山していますね。

実際経営者が一番悩むところは「戦略」の部分です。そこを磨くのに経営者の仕事として重要ところであり、面白いところです。「こんな仕事をしたい!」という気持ちから、部下が考えるような仕組みを作っていく。そして社長は部下にヒントを与えることで社員が動きます。つまり「組織力」ということになるのです。
「戦略力」というのは商品を開発していく、磨いていくというのが大きな仕事です。その経験をいかに「組織力」に活かすかが大切ですね。

鷹尾氏:会社にとって有利な事の選択を重ねていくのは、それほど悩むことはないかなと思いますね。それが「やりたい事」、あるいは、自分たちの色に合っているのか?と考えていくと悩み事はありますね。

高井氏:社長としての軸、会社の目標をしっかり持つことだと思いますよ。例えば儲からない事は楽しくないですし、意味がないなら捨てる。それなら新しい事を始めるというのもあります。既存の商品をベースにし、商品の組み合わせからでも新しい戦略が出てくるでしょう。
最初は知恵から初め、自分の出来ないことをM&Aをして取り組んでいくことも出来ると考えられますね。M&Aをする会社は価格競争に限界が出てきたところがやることが多く、そのような会社は技術を持っているので、儲ける方法を教えてあげることも出来ます。
そのように色んな機能を複合化して持つことで新しい商品が出来る、色んな事が出来るようになる、など、どんどん幅が広がってきます。商品の作り方というのはなかなか外から出来ないので、それを取り組むのが経営の真髄と言えます。

鷹尾氏:結果論で見ているというところもあり、たくさん失敗しているところが強みに変わっていると思うのですが、どういう失敗が一番収穫が大きいのでしょうか。先ほどのアイリスオーヤマさんでは成功に繋がる失敗はあったのでしょうか。

高井氏:一概には言えないですが、例えばブームに乗って失敗、オイルショックでやりすぎてしまったなど、失敗はしていますね。

鷹尾氏:時代の流れを読み間違えて失敗したということですね。

高井氏:そうですね、何度も失敗しているけど、その次に打った手がすごいから今日があります。問屋の壁、模倣の壁、バイヤーの壁、市場成熟の壁、そんな沢山の壁を乗り越えて成功していますね。なぜ乗り越えられたかというと、それは社長の負けん気が強かったから。

三人兄弟の長男で弟たちの面倒をみていたようですね。弟達に大学に行かせながら自分は会社を経営する、そして弟達に会社を支えてもらう。そんな同族企業の会社ですね。とと姉ちゃんと一緒ですよね。

鷹尾氏:ハングリーさといいますか、チャレンジングな方は失敗を得れば得るほど大きくなるということですね。

高井氏:失敗を総括して次にどういう手、策に出るのかというのがヒントになります。