経営トップが考える社長のあり方とは(中編)―教育の本質は、部下の感情を動かすということ―

本対談は、前編・中編・後編の3部構成でお届けします。
前編:社長業の原点に迫る
中編:教育の本質は、部下の感情を動かすということ
後編:組織を動かすには、ガマンが必要!?

人を育てないといけないと感じるのは、社長業にハマった当然の結果。

鷹尾氏:私が会社を始める時は「こんな会社にしたい!」という思いで作りましたが、目の前の課題でいうと社員をビジネス的に教育する必要があると感じています。
教育というテーマの壁にぶつかって、上下関係がないと教えられないと実感しているのですが、高井様は教育についてどのようにお考えでしょうか。

高井氏:人を育てないといけないと感じるのは、社長業にハマった当然の結果ですね。

鷹尾氏:面白いですね~運命的(笑)

高井氏:会社を運営していく中で、教育しなければならないという課題は、組織の目標が高まれば高まるほど追い込まれていきます。
業績は社員の働きにかかっているので、会社の成長は社員の成長にかかっていると言っても過言ではありません。目標が高くなるということは、業績を出せというということなので、目の前の業務に専心することになりますね。しかしそれをやり過ぎてしまうと社員の目が蟻になって他が見えなくなります。他が見えなくなると自分のことしか考えられなくなり、会社全体が見えなくなってくるのです。
いつも言いますが、社長は経営者の視点として「蟻の目、魚の目、鳥の目」の視点があることを常に心得ておかないとダメだと思います。

鷹尾氏:いくら素晴らしいビジョンを持っていても、お金がないと続かないですからね。
経営者として「蟻の目、魚の目、鳥の目」の視点が欠けていた場合、どのようなことが起こりますか?

高井氏:そうですね、この3つの視点をバランス良くもっておかないと、経営者として上手く会社を導けないと思います。つまり短期的な視点と長期的な視点の両方をバランス良くもっておくのが経営者の基本スタンスです。
しかし、経営者も一人の人間です。何でも考えられるというのは限界がありますから、自分で出来ない部分というのは誰かに補って貰わないといけないですね。
経営者は自分の目的を達成するために、どうやって自分で不足部分を補い、内部や外部のインフラを構築していくか、というのが持つべき社長の問題意識の一つです。問題を意識するかしないかは経営者のパワーの持ち方として大きな差が出てくると思います。

経営者からみて部下をこういう風にしたいという教育は不可能。感情的になれる社員ほど、成長する。

鷹尾氏:多くの中小企業の経営者は、一番悩んでいるのが「教育」というテーマです。
正直学歴が高いというのは信用しておらず、地頭が良いか悪いかというところはあるのかな、と感じています。「自分の頭で考える」ということがテーマとなった場合、教えるのではなく放置してみるということもありますが、教えるさじ加減というところは、どの経営者にも大きなテーマになっています。
教育が悪い、ゆとり、優秀な社員がいない、と向き合わない経営者がいらっしゃる中で、教育に向き合おうとされている経営者の方に何か面白いことを提示できないでしょうか。

高井氏:そうですね、経営者からみて部下にこういう風になって欲しいという教育は難しく、ほとんど不可能に近いと思います。そのように考えること自体が社長には大きなストレスが溜まりますし、教育を「育てる」という言い方に変えた方が良いかもしれないですね。
社員が育ってくると、そこからその人材をどう活かし、自分の分身の一部として何を期待するかなど、次の手がいろいろ考えられるようになってきます。

社員が育つということを、社員がそれぞれ良い方向に変わっていくという解釈をすれば、教育問題の課題解決にはチャンスが広がると思いますよ。仕事をしながら育つ、目標を持って能力を身につけていく、そのような場をつくることが会社に必要な形で育てていくということだと思います。会社の目標を設定し、それが個人の目標となり、自分の仕事だと思ってもらうことが重要だと感じます。

例えば、スポーツ選手はみんな充実した良い顔をしていますよね?
それは人生の目標と、今日しなければならない目標がしっかり繋がっているからなんです。
やるべきことが明確と言えます。「目的」と「手段」がハッキリしていると楽しくなるのです。

同じように経営者は社員個人個人に行動の目標をきちんと持たせることが重要です。
個人が会社の目標と自分の目標を一緒にして、どうしたら達成できるかを一生懸命考える。そして行動することで工夫が出てきて、その積み重ねで能力を身につけていきます。

僕の経験ですが、人はびっくりするほど成長します。
喜び、悲しみ、怒り、悔しさなど感情を大きく持ち合わせている人ほど成長します。
育ってくると育てる人間は楽しくなりますし、自分自身も発想が大きくなってくるのが実感できると思います。なので「チャンス」「活動する場」「活躍する場」を与えていくことで社員は必ず成長すると思いますよ。そのようなことを教育と言えば良いのではないでしょうか。

素晴らしい会社は本当に少ない。

鷹尾氏:どのような目標に価値を感じるかですが、個人の価値観が分散しているように感じます。なにしろ世代をまたいで目標を設定するというのは難易度が増すのではないかと。そう考えていくと今後10年20年・・・会社経営はどんどん難しくなるように思うのですが、いかがでしょうか?

高井氏:そうですよね、会社にとっての「目標」と個人の人生にとっての「目標」が完全に一致し、永遠に働くというのが一番理想的ですが、そのようなケースは稀ですし現実的ではないですよね。

例えば、個人の目標として「給料をたくさん貰おう」「何年間かテーマを決めて勉強しよう」というような目標設定の仕方もありますね。
しかし社員の立場からすると一番良いのが、この会社にいると成長するチャンスを与えてくれる、育ててくれる社風がある、この場で自分を磨こうと思える環境を会社が与えてくれる。となると当然社員は一生懸命になります。自分にとってメリットをくれる会社、それが「社徳」のある会社だと言えるのではないでしょうか。「社徳」のある会社こそ潜在的な成長力を持っている会社のイメージだと思います。そのような会社に人は惹かれると思いますよ。

 

鷹尾氏:実感値として、それだけ素晴らしい会社は本当に少ないと感じますがいかがでしょうか?

高井氏:少ないですね。大企業は安定しているから定着率が高いのですが、なぜかというと他の会社より良い制度や仕組みがある、給料が良いなど、社員の立場からみると会社にいるメリットが大きいからだと思われます。しかしベンチャー企業やオーナー会社は最初から社員に還元できる仕組みが整備されていないことが多いと思います。そのような制度は今後成長しながら徐々に作って行くということで対応する。ということで良いでしょう。ただしそういう制度を設計する場合、高コストで低効率だと会社経営がもたないので、全員を満足させるということではなく高待遇高効率を目指すという功利的な視点もいるかと思います。

鷹尾氏:例えば会社がたくさん給料を払いたい、高生産性を実現したいと思っても、現代の社員さんは自分という主体と、会社という主体を完全に切り分けて捉えていると感じていまして。会社は私とは違うから会社がやってよ。高待遇の方がいいよ。と主体が自分と会社で切り離されているように感じますが、このようなケースは多いのでしょうか?

高井氏:そこはまだ期待しなくていいと思います。もちろんそういうケースもありますが、社長の方針が間違っているよという人も出てくるかもしれないですし。今の人たちは昔の人たちより事業化精神を持っている人は多いと思います。今のギブ・スパイラル・ジャパンはまだまだキャリアを積んでないだけだと思いますね。組織が良くなってくるといろんな考え方も出てくるし、いろんなタイプも出てきますよ。

組織的な営業について

鷹尾氏:中小企業の課題点の一つに、仕事が出来る人はできる、出来ない人は全く生産性がないと見えるのですが、その状態の中で組織的な営業に変えていきたいとなった時にみなさん四苦八苦されているのではないかなと思っています。
そのような中で例えば営業マンを採用する時に、どのような営業マンが育つというポイントはありますか?

高井氏:採用の時は適性を見抜くことが重要だということは間違いないですね。
しかしそうピッタリの人材はなかなか採れませんよね、難しいです。

ではどういう人が営業に向いているかというと、「他人に対して関心がある」「好奇心がある」「社交性がある」「競争心がある」「数字に対してそれなりの意識がある」という人が営業に向いています。短時間の面接の中では『本当に営業が向いている人』『営業に向いているかよく分からない人』『向いていない人』の違いが出ます。
本当の適性がよく分からない人が圧倒的に多い中で最終的な決め手はそうないと思いますから、採用時は「元気が良い」「社交性がある」「誠実である」などのアバウトな適性判断でも良いとも言えます。採用で業績が全て決まると決め込み過ぎると採用は本当に難しいです。

割り切って、採用後にどうやって営業的な喜びを感じさせられるか、育てて楽しみを味合わさせるのか、など採用後の視点を加味して人に接することも重要な視点ではないでしょうか。
採用と一体化し、会社で教える仕組み・教える人・教える内容が揃っていないといけないでしょう。就職人気というのは、この会社にいたら自分を育ててくれるという仕組みがあるところに集中します。それくらい育ててくれるというのは魅力があるのです。

このように、採用だけでは理想的な営業マンを採るというのは難しいので、組織としてどうやって教えていくかという課題を解決するかが一番重要ではないかと思います。
方法論としては、社員同士が刺激し合い、勉強をしていこうという風土が出てくると自ずとノウハウや経験をもった人が出てきて、その人を拠り所にしながら教育体系が出来てきますよね。
マニュアル化やノウハウ集が出来ると会社として経験が蓄積され、レベルが一つ上がり、新しく入って来た人を教育しやすくなるでしょう。

新しい企業が即戦力になる営業マンが欲しいという点は理解できますが、採用後に営業の面白さを教え込むことにより、営業に強い人間を作るという姿勢が必要だとも言えます。

鷹尾氏:面白いですね、営業マンを採用するとなればどうしても即戦力で考えてしまいがちですが、より内面的な部分の「いかに営業的な喜びを与えられるか」という点や、「社員同士で教育し合う」という点については、是非やっていきたいですね~!
そうすることで組織がまとまらないということもなくなりそうですし。

高井氏:組織はバラバラだと弱いので、社長の仕事は「どうやって全員の能力を引き上げるか」「いかに能力を集めていくか」ということが組織強化上、重要な役割だと思います。
社員の能力が向上していかないと、社長が本当にやりたい事は実現できない。
みんなをその気にさせていくのがソフトパワーの経営だと思っています。
業績の向上は社員の成長をベースとした社員能力積数の増大(社員レベル?レベル向上率?社員数)により実現すると言えます。

鷹尾氏:興味深い話ですね、担任の先生よりも教育委員会の人になれよというようなイメージでしょうか。

高井氏:校長先生かな?ははは(笑)

 

>>後編『組織を動かすには、ガマンが必要!?』に続く