経営トップが考える社長のあり方とは(前編)―社長業の原点に迫る―

高井 俊成 氏 × ギブ・スパイラル・ジャパン代表 鷹尾 豪 氏


日本郵政をはじめさまざまな企業で役員を経験し、経営の現場を見てきた高井氏。
後、高井経営研究所として独立し、経営者のよき理解者として日々ご活躍されています。

対談相手であるギブ・スパイラル・ジャパン代表、鷹尾氏には、定期的に経営指南をするなど、良きメンターとして活躍。経営トップが考える社長のあり方について議論いただきました。

本対談は、前編・中編・後編の3部構成でお届けします。
前編:社長業の原点に迫る
中編:教育の本質は、部下の感情を動かすということ
後編:組織を動かすには、ガマンが必要!?

取材: 株式会社ギブ・スパイラル・ジャパン 社長室 西浦晃子

多くのケースで失敗や成功を沢山経験して、それを自分なりに纏めようとすると、「語録」という形で短い言葉で表現してみると良い。
仕事では何事でも原則、法則が通用するのでそのような「語録」を持っておくと考えが纏まるし、仕事の処理で割り切り、理解が早くなり効率が上がる。

鷹尾氏:ご相談させていただいた時に、簡単なキャッチフレーズで経営の進め方や経営課題対応のポイントをお話いただいてる中で、考え方を整理してもらってまして大変感激しています。いつも高井様とお話していて感じるのですが、言葉で表現し辛いものを論理的な視点と独自の見方をされているなと感じています。そのように短い言葉で言われたときに、背中がゾクッとしますね。普段から論理的に考えるように意識されているのでしょうか。

高井氏:私の場合考えて作ったというよりも、いろんなケースに遭遇した経験談をまとめた結果としてそのような論理が結論として出てきます。それを簡単な言葉でまとめたというものですね。失敗をしたこと、上手くいったことなどには常に要因があります。
そこから得たものを短い言葉で簡単にまとめておくと、それが後々活用できますし、積み重ねていくことで自分の仕事の進め方、考え方の骨組みになっていくような気がします。
現役の時は「営業マンの心得33ヵ条」という語録を作ったことがあります。
組織的な視点で考えると、私の経験上、日常の仕事には何事にも原則があり、法則があるということを強く感じることが度々ありました。
それを整理、積み重ねていくとそれが自分のスタイルというものとして確立していくようになり、結果仕事が効率よく進められるようになり、仕事の手応え感を得て気持ちがスッキリするようになりました。それは仕事が分かるようになるということと繋がっているように感じています。

鷹尾氏:そうですね、日常生活や仕事の中で原則に気づくアンテナが必要ということですね。
会社では立場があがる程、社員や部下に伝えることが多くなると思うのですが、経営者は自分なりの原則を社員に伝えていくことが重要でしょうか。

高井氏:私は管理職の時に感じたことですが、経営者は「自分なりの原則」をたくさん持つ立場にいらっしゃると思います。経営者は様々なことにチャレンジし、学びを経て自分なりの経営スタイルを固めていくわけですが、その実践的な経験を「簡単な言葉」や「語録」の形で作っておくと仕事を進めるうえで効用があります。
私の経験では技を得たようで嬉しかった記憶がありますね。
そのように自分なりに咀嚼しようというスタンスで取り組み始めると、「語録」をたくさん作ろうという思いが高まり、日常のふとした原則に気づくことで頭が整理され、楽しくなりますね。

混沌とした多くの出来事が1つの言葉で表現され、徐々に他の人の意見を聞いてみようというスタンスになります。
自分の意見がどんどんまとまっていくことで、最後は自分の「方針」や「スタイル」になるのです。社長は本から学んだり、人から教わったことを社員に説くことも1つのやり方としてありますが、社長自身が実践的に学んだ原則を出来るだけたくさん持つと経営を進めていく上で役立つと思いますよ。経営者の言葉に社員は常に耳を傾けているので、そのような社長独自の語録を発すれば社長の考えやルールを理解しやすくなり、社員も動きやすくなると思いますよ。

自分で実践的に学んだ原則を出来るだけたくさん持つと経営を進めていく上でやりやすいと思います。経営者の言葉に社員は常に耳を傾けているわけですが、そのような語録的な言葉を社長が発すれば社員は社長の考え、ルールが理解しやすくなる、社員も動きやすくなると思います。

鷹尾氏:社員のためにもなるという効果があるのですね。原則というとパターンでしょうか?それとも心理でしょうか?

高井氏:原則とは経営を進める上での合理的なツール、皆が理解しやすい考え方・やり方だと理解すれば良いと思います。基本的な自分の「考え方」「スタンス」「方針」をブレない軸として短い言葉で表現するということです。
そのようにしておけば頭の中も整理されますし、発展していけば「社員行動指針」「会社理念」「ビジョン」など会社の礎に繋がっていくのではないでしょうか。

鷹尾氏:おもしろいですね!
それは大きな会社の社長さんほど、たくさん原則をお持ちで、何かあった時に短い言葉で伝えられるということでしょうか。

組織というのは、いかに社員の力を高めるか、やる気を高めるか、チャンスを与えるか、この3つが基本である。

高井氏:その社長さんによるとも思いますが、
結局社長さんという立場は、自分の「思い」や「考え」を会社内に浸透させて理解してもらうのかが、会社運営上一番重要なテーマです。
良い会社というのは社長さんの考え方や事業方針が浸透しているという点に強さがあります。そのような会社は必ずしも一つ一つ細かく口に出さなくても良いというスタイルでやっている面が強いように感じますね。
そこに私が言う経営語録があるのです。もっと発展したものが松下幸之助さん、稲盛和夫さんの「私の経営哲学」というものですね。
ところがそれを目指し、マネしても厳しいものがあるので、まずは自分で作ってみて、より自分らしいものを作るのが基本だと思います。

鷹尾氏:なるほど、スタイルが浸透しているということが、良い会社かどうかの判断基準の1つになりうるということですね。
一方で人間の鍛錬と表現するのが正しいかどうか分からないですが、社長が「いい顔」をしている会社は良いという話を聞いたことがあります。社長が人間的な修行を行うというのは偉大な社長さんはほぼ意識されているような気がしています。
その中でおもしろい社長だなと思われた方がいらっしゃれば、お伺いしたいです。

高井氏:お名前を出すことは出来ませんが・・・(笑)
会社というのは目的があり、組織目標があり、それらを実現することが社長さんの仕事になりますよね。ベンチャー企業やオーナー会社は、目的や目標を自分で作って、社員の力を使って実現させていくことになります。
最初に社長の「思い」があり、常にそのことを考えていかなければならない立場です。
その「思い」をどうやって社員へ伝えるか、実現するための具体的な方法は何か。など具体的な課題が次から次へ生まれます。
最終的な目標が明確になるに従い、組織に足りないパワーが見えてくるようになります。
それは戦略なのか、お金なのか、人材なのか・・その課題を1つずつ解決する。
最終的な目標が見えてこないと、部下は動けないので、社長は具体的に示す。それが示されると今後は部下が答える、答えられない、ということが分かる。
分かると手を打たなければならないことが出てくる。と、このようなことを繰り返しながら、経営や事業は回転して進んでいくのです。
その過程で社長なりの「薀蓄(うんちく)」が生まれ、経営語録として集積されていくのです。

鷹尾氏:社員を動かし、自分の目的を達成していく過程が修行になる。それが「いい顔」になっていくんですね。では会社として社員に対して心がける課題は何でしょうか?

高井氏:会社というのは、いかに社員の「力を高め」「やる気を出させ」「チャンスを与えるか」この3つが組織の基本課題になります。
社長という職務は、この課題に焦点を定め、当面の課題、中長期課題を視点に起きながら具体策を考えないといけないのです。これを繰り返しやっていく中で、自分が社長としてやりたいことが上手くいくのか、上手くいかないのか、どうすれば良いかが見えてくると言えます。

鷹尾氏:なるほど!分かったような気がします。
つまり社長というのは目的に向かって突き進み、協力者である社員の能力を上げていくということが重要だということですね。社長業は奥が深いですね~。

高井氏:社長業というのは、(1)自分の夢を実現できる(2)夢の実現までの障壁を解決するために学び、実力を高められる(3)人間力を自分で高められる
という点で面白い仕事だと言えます。サラリーマンには味わえない、ロマンのある仕事だと言えますね。とても辛い仕事でしょうが、金銭的な魅力のみならず、自分にしか出来ない目標をせていし、実現するまでの複雑な課題を、いかに自然な形で解決していくか、という意味で社長業は面白いですし、始めたら辞められないと思いますね。

新たに得たノウハウで次なるテーマに取り組んだり、そのための人材を確保したりと、更に大きく広げたいなど夢が広がるのです。そういうことを繰り返しながら、その結果社長の「いい顔」「味のある顔」が生まれるわけです。
「あの社長、顔が生きてる、魅力的な顔だ」と周りには見えるのです。
初めから出来ているわけではなく、社長は自分の顔を作ることに責任があるとも言えます。
良い顔だと言われるようになると、正に社長冥利に尽きるでしょう。
社長になれるチャンスは簡単には得られませんので、鷹尾さんは社長業の楽しみを「最初はスロー、それをロングに、最後にディープに」というスタンスで未来志向で漫喫すべきと思います。

鷹尾氏:お話を伺い、純粋に社長業を楽しもうと感じましたのですが、同時に孤独という側面もあるのですね。

高井氏:自分に協力してくれる人を作れないと、自分が思っていることは実現できませんよね。戦略家であることが社長業での大きな部分ですが、同時に教育していくことも重要です。
教育していかないと自分の夢が実現できないという面では教育者の側面も大きいと言えます。単に部下に成果を求めるだけではなく、「育てて、意欲的に働かせるか」が成果を大きく左右するポイントと言えます。

 

>>中編『教育の本質は、部下の感情を動かすということ』に続く